平成16年度

エネルギー・地球環境委員会成果報告書

− マリンバイオマス由来の低炭素エネルギー社会の実現に向けて

概   要


1.マリンバイオマス由来のBTL製造システム

1.1 新生アポロ&ポセイドン構想の基本的な考え方

 図−4.9には、地球温暖化問題を解く2つの鍵が隠されている。

1つは、地球誕生以来大気中のCO2削減に誰が一番貢献したのかである。もう1つは、何故大気中のCO2濃度がゼロにならなかったのかである。

 この2つの謎を解くことによって地球温暖化対策に対する本質的な解を得ることができる。

 第一の答えは、真核藻類が活躍したことである。次に、どうして大気中のCO2濃度がゼロにならなかったのかの疑問に対しては、図−4.10に示す海洋の炭素循環システムの中にその解を見つけることができる。海洋がCO2を取り込む仕組みには、「生物ポンプ」と「アルカリ・ポンプ」の2通りの方法があることが知られている。

真核藻類が出現した初期のころの「生物ポンプ」は、光合成により大気中のCO2を吸収した有機物を温度躍層を通過して海底まで沈降させることができた。ところが、大気中のCO2が削減され酸素濃度が増大すると、海中の溶存酸素濃度も増大したことにより、沈降中の有機物の90%以上が酸化分解されて、CO2は再度大気中に放出されてしまうようになった。また、海中の鉄分が二価から三価に酸化されて海底に沈降する海域が出現したことにより、植物の光合成が活躍できる海域面積が減少した。

 一方、「アルカリ・ポンプ」の方は、気体のCO2と海洋中の炭酸イオンとが反応して重炭酸イオンとして取り込んでいる。海洋の表層域にも中深層域にも大量の炭酸イオンが存在しているが、海面下200m程度に海水温度が急速に低下するサーモクライン(温度躍層)があるために、自然の循環によって海洋の表層域と中層域の海水が交換するには数百年から1,000年オーダーの時間がかかるといわれている。

 これが、大気中のCO2がゼロにならなかった理由である。約450万年前に人類の祖先である猿人が出現し火を使うようになった。さらに産業革命以降は多量の化石燃料を燃焼させるようになり、自然の吸収能力をオーバーしてしまった。このオーバーした分が大気中に蓄積された結果、地球温暖化問題が発生したといわれている。

 

 

 現在の地球温暖化対策は、ほとんどが排出抑制対策である。吸収源対策としては、森林シンクが検討されているに過ぎない。そこで、新生アポロ&ポセイドン構想では、わが国の排他的経済水域でマリンバイオマスを使って排出抑制対策と吸収源対策を同時に行うことを考えている。

 先に述べたように、地球誕生以来大気中のCO2削減に一番貢献したのは海藻であった。そこで、ホンダワラなどの大型海藻類を育成して大気中のCO2を吸収させるために、大規模な藻場を造成して外洋を回遊させる。それを収穫して、洋上でマリンバイオマス由来の液体燃料(BTLBio to Liquid)を製造する。それと同時に、余剰エネルギーを使ってBTLの製造過程で発生するCO2を回収・液化することを構想している。液化したCO2は、地中貯留や海洋隔離することを構想している。

 従来の森林シンクと異なる点は、海藻の生活史が短いという点にある。短年藻で6ヶ月、多年藻で3年程度である。従って、海藻が枯死する前に収穫する必要がある。そうしないと、前述のように、枯死した海藻は沈降中に酸化分解されて、光合成によって海藻に取り込まれたCO2は、再度大気中に放出されてしまうことになる。

 そこで海藻を収穫し、それを原料にして燃料を取り出すとともに、余剰電力を用いて排ガス中のCO2を回収・液化するものである。これが、新生アポロ&ポセイドン構想の基本的な考え方である。

(図−4.11参照)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.2 トータルシステムの構成

1.2.1 基本構成

 「新生アポロ&ポセイドン構想」とは、未利用の排他的経済水域(EEZ)を活用し、わが国が対応に苦慮している温室効果ガス削減対策と石油代替エネルギー資源の確保を同時に解決しようとするものである。地球温暖化対策と経済・産業の両面を図りながら“マリンバイオマス(海洋生物資源)由来の再生可能エネルギー社会”の実現を目指すものである。

 トータルシステムは、@海洋プランテーション、A洋上プラント船、B海洋産業インフラの3つのサブシステムから構成される。@は、外洋でホンダワラなどの大型海藻類を育成する浮遊式の人工藻場である。Aは、収穫した海藻を洋上で処理するプラント船であり、マリンバイオマスを原料とするFPSOFloating Production, Storage and Offloading)である。Bは、海洋プランテーションを対象海域内に回遊させるために必要不可欠な機能である。海洋変動予測システムなどの観測・監視および遠隔制御システムから構成される。従来の類似計画には見られない発想である。

 海洋変動予測システムとGPSを組み合わせることにより、海洋プランテーションを構成するプラットフォームの巨視的な流れの方向を予測するとともに、GPSによってプラットフォームの現在位置と形状を把握する。また、プラットフォームの位置情報を船舶に提供する「船舶安全航行支援システム」を整備する計画である。

図−4.12  新生アポロ&ポセイドン構想のトータルシステム構成

 

 図−4.13は、プラットフォームのイメージ図を示す。プラットフォームは浮遊式の漁網と7隻の大型帆船やタグボートから構成される。9個のGPS受信機を配置して、プラットフォームの形状を把握する。海流と風の力を使ってプラットフォームの形状を維持する。

 網の大きさは14km×18km(面積=100km2)でその半分に海藻を育成する。10個のプランテーションに対して1隻の洋上プラント船を配置する。これを10セット集めたものを海洋プランテーションと称する。これで年間約2,700万トンの海藻を収穫する。

 プラットフォームの材質は、力が加わる骨格部分には化学繊維を用いるが、その他の網の部分には陸域の繊維質のバイオマスを活用する。

 

 洋上プラント船に搭載されるマリンバイオマス処理プラントは様々な方式が考えられる。図−4.14はCO2削減を最優先して処理することを考えた処理プラントのプロセスを示したものである。また、図−4.15はBTL製造とCO2削減を並行して処理することを考えた処理プラントのプロセスを示したものである。これらは、パルプ工場における黒液処理システムをベースにしたものである。前者は、すでに2,900トン/日の処理プラントが商用化されている実績を持つ。

その他にも、木質バイオマスのガス化メタノール製造システムなどの技術を利用することも考えられる。いずれのプラント技術を活用するにしても、海藻中に含まれるNaClによる腐食対策に配慮する必要がある。


 

 

     


1.2.2 海洋隔離システム

図−4.16 海洋隔離システムの運用イメージ

(1)海洋隔離システムの運用イメージ

 図−4.16に海洋隔離システムの運用イメージを示す。洋上プラント船において回収されたCO2は、液化されCO2輸送船に積載される。CO2輸送船は、液体CO2を放流海域まで搬送して、CO2放流船に積み替える。

 放流船によるCO2の海中隔離は、現在RITEにおいて技術開発している技術を利用するものとする。

 これは、あくまでも原理的な運用イメージを示したものである。海洋プランテーションの運用場所によっては、洋上プラント船において回収されたCO2を直接海中に放流して海洋隔離することも考えられる。

 

(2)運用場所とコスト試算

 表−4.3に海洋隔離のコスト試算例を示す。この例では、CO2輸送船による輸送距離が1,000kmになっても輸送コストはそれほど変わらないといわれている。しかし、船舶でCO2を輸送するには、洋上プラント船において回収したCO2を液化する必要があり、このコストは無視できない額である。

 洋上プラント船において回収したCO2を直接放流するには、放流方式の再検討などの検討が必要になるが、それが可能になれば、CO2輸送船とCO2放流船の建設および運用コストが不要になることから、海洋隔離の大幅なコスト削減を図ることが可能になる。

 排ガス中からCO2を回収する回収エネルギーを洋上プラント船において発生する余剰電力によって賄うことができれば、火力発電所に適用する場合に心配されているエネルギー削減効果は絶大である。

 表− に示すように、CO2の回収・液化効率が向上すれば、洋上プラント船において発生する余剰電力によって排ガス中からCO2を回収・液化できるので、海洋隔離に伴うコスト削減を大幅に図ることが期待できる。地球温暖化対策を海洋で実施するメリットを最大限享受することができる。

 

表−4.3  海洋隔離のコスト試算例 

No.

項  目

コスト(円/t-CO2)

火力発電所等の例

新構想

回 収

3,0635,124

余剰電力の利用

液 化

2,2801,930

輸送(500km)・隔離

1,175

1,175

 

合  計

6,5188,229

1,175

 

 

1.3 概算費用見積もり

出典:日本経済新聞

 右図は、2003年に日本経済新聞社が実施した第7回「環境経営度調査」の結果を示したものである。これによるよと、CO2換算で温室効果ガス1トン当りの削減コストは、回答のあった206社の平均で9万900円になった。業種によってバラツキがあるが、最も高い機械で187,600円、最低の電力でも1万300円になった。

 本構想では、年間2,700万トンの大型海藻を収穫して3,800t-CO2の二酸化炭素を吸収する計画である。CO21トン当りの建設コストを1万5,000円と見積もると、システム構築費用は5,700億円となる。

 図−4.17に示すように、技術開発を国の予算で賄うことができれば、事業化費用5,700億円でトータルシステム構築をすることは実現可能な数値目標であると考えられる。

 

 

 

 

 

 

 

1.4 既存計画との比較検討

 過去に日米において、表−4.2に示すように、本構想と類似の計画が検討されたことがある。本構想は、ホンダワラなどの大型海藻類をマリンバイオマス(海洋生物資源)として用いるものであるが、その他にもいくつかの構想が、大規模な食料資源の増産計画として検討されている。

過去の類似計画の検討結果を参考にすることにより、今後のシステム検討をする際に配慮すべき様々なことを学び取ることができる。

(1)プラットフォームの構造

 外洋に大規模なプラットフォームを構築する場合、浮遊方式を採用することが要点である。外洋で係留方式を採用すると、アンカーの自重を支える浮力を生み出すために、堅牢なプラットフォームを構築せざるを得なくなる。それが構築コストを大幅に押し上げる要因になる。

(2)マリンバイオマスの栽培

マリンバイオマスを吸収源対策として利用するには、海藻を刈り取って海藻に含まれる炭素を確実に固定処理する必要がある。コンブのような単年藻ではなく、ホンダワラのような多年藻を栽培して、年中収穫ができるようにすることにより設備稼働率の向上と設備投資額の低減を図る必要がある。また、食用品としての価値を追求するより、単位面積当りの収穫量の増大を目的とした大型海藻類を栽培することが望ましい。

(3)有用物質の抽出

  従来の計画は、海藻から有用物質を抽出した後の藻体残渣を原料にメタン発酵方式によりメタンを生産するものであった。

 過去の事例では、海藻の生産コスト(50/kg)が、海藻から回収されるメタンの市場価格(12/kg)を上回ることが判明した。そこで、コンブの成分から有価物を回収することで採算を採る検討を行った。ところが有価物回収に要するエネルギーが、回収されるメタンが保有するエネルギーを超えてしまう結果になった。省エネルギープロセスの導入を検討したが、それを克服することは困難であった。

 これまでに、海藻から有用物質を抽出することで、バイオガス発酵のコスト面でのギャップを埋めようという取り組みが過去20年間なされたが、残念ながら期待された成果が得られていない。この理由として、これまで利用されずに見過ごされていた海藻中の個別成分は、一般に微量であったり、それほど高価でなかったりするため、その物質を抽出・精製する際に払うコストに見合った経済価値を得ることが難しかったことが上げられる。

 そこで、個別成分を取り出して利用することを目指すのではなく、逆になるべく成分分別にコストをかけないで全体利用を目指す方向が考えられる。


表−4.2 米日の既存計画と新生アポロ&ポセイドン構想との比較分析

 

No

項 目

米国の既存計画

日本の既存計画

新構想

備 考

ミッション

・エネルギー問題

・エネルギー問題

 

・エネルギー問題

・地球温暖化問題

・排他的経済水域問題

・水素エネルギー社会

・排出権取引

生産物

・化学薬品、肥料、飼料

・メタン生産

・水溶性有価物

・メタン生産

・有価物抽出

BTL生産1)

CO2吸収

原油の分留と同じ考え

メタノール、DME、エタノールの生産

設計手法

単一ミッション指向

・ガス業界主導型

単一ミッション指向

・エンジニアリング業界主導型

多重ミッション指向

・業種横断・学際型

わが国の科学技術力を結集海洋産業インフラ整備

事業化手法

実証研究の色彩が強い

実証研究の色彩が強い

最初から大型化を目指す

クリティカルマスの確保

対象海域

カリフォルニア湾内で係留

沿岸海域で係留

外洋で回遊

・海流の流れに乗せる

・富栄養海域を選定

規模

中規模

20km×20km程度)

中規模

(8km×5km程度)

大規模

10km×10km×10個)⇒

事業化では10セット整備

=1セット分

海藻の種類

ジャイアント・ケルプ

マコンブ

ホンダワラ等、多毛作

設備稼働率の向上

プラットフォーム構造

係留式剛構造

係留式剛構造

浮遊式柔軟構造

半潜水型の柔構造

育種方法

ケルプを移植

種苗を植え付ける

海藻の断片を撒く

栄養分は葉体から吸収

10

生産方式

メタン発酵方式

メタン発酵方式

部分燃焼方式

合成ガスの生成

11

生産場所

陸上

陸上

洋上プラント船

輸送エネルギーの節約

12

灰分廃液処理

肥料、液状滋養物

廃棄物処理(有機質肥料)

肥料化、排水処理

栄養素の補給

13

先進技術開発

・人工湧昇装置

・レーザー利用促成栽培

・海の砂漠のオアシス化

・光合成を促進

・永久塩泉の実用化

14

課題

コスト削減

漁業権

海洋生態系への影響評価

稚魚の成育場所提供

15

計画主体

米国ガス協会、GRI

JOIAENAA、発酵工協

MRIJRIA

業種横断的

16

計画年代

1976年、 〜2000

198183

200304

 

 

2. ロードマップ

2.1 全体計画

 図−4.18に示す手順で全体の技術開発を進める計画である。

(1)事前調査(2004年度)

(2)基礎的予備調査(2005年度)

(3)実現可能性調査(200607年度)

(4)パイロット・システム開発(200810年度)

(5)実証システム開発(201012年度)

(6)事業化(2013年度〜)、国際協力プロジェクト提案

 なお、(5)では4基のプラットフォーム(10km×10km)と1隻の洋上プラント船を建造して実証実験を実施する計画である。(6)では、10基のプラットフォームと1隻の洋上プラント船を1セットとし、順次セット数を増やしていく計画である。

 ポスト京都議定書に合わせて、2013年度以降国際協力プロジェクトへの提案も行う計画である。

 

 

 

2.2 基礎的予備調査計画

 一番重要かつ不確実性の高いサブシステムから確認実験を実施する。浮遊式の大型プラットフォーム(14km×18km)を採用するには、外洋における回遊海域の存在が必要不可欠である。また、合わせて外洋における海藻の生育状況の確認も重要である。

 事前調査では、JAMSTECの海洋変動予測システムを用いたシミュレーションによると、三陸沖に3ヵ月程度プラットフォームを放置しておいても回遊している海域があることが示された。また、図−4.19に示すように、それは人工衛星の画像からも直径300350kmの海流の渦場を確認することができる。

 最初は、簡便なGPS搭載の海洋ブイを用いて当該海域における回遊確認を実施する。GPS情報はオーブコム通信衛星を利用して収集する。DGPSを形成すれば波浪(高さ方向の変動)も15cmの精度で計測することができる。

 次のステップとして、小規模な藻場にGPS及び監視カメラを搭載したミニ・ミニ・プラットフォームを構築し、当該海域を回遊させる確認実験を実施する。プラットフォームの現在位置および海藻の生育状況は通信衛星を経由して上方を収集する。その結果はWeb上にも公開して、一般モニターにも情報提供する計画である。

 同時に、JAMSTECの協力を得て、海洋変動予測システムの予測精度の検証も実施する計画である。

 合わせて、東京海洋大学等の協力を得て、大型海藻類の成分分析を行い、黒液との相違を調査する計画である。

 

図−4.19 基礎的予備調査のイメージ図


2.3 将来計画

図−4.20  主要な地球温暖化対策

 本構想では、京都議定書の第一約束期間(200812年)中は、わが国のCO2削減対策に資することを目標とする。国際排出権を購入する際の価格交渉力を確保するための戦略的な技術手段としての位置づけも重要である。さらに、ポスト京都議定書に向けて国際プロジェクト化を提案する。

 大気中CO2濃度の上昇を抑えて地球温暖化を防止するには、CO2排出量を自然のCO2吸収能力レベルにまで抑制する必要がある。今後、発展途上国の経済成長に伴ってCO2排出量が急激に増大することを考えると、CO2が大気中に過剰に蓄積されることが予想される。これを自然のCO2吸収能力だけに依存すると100年以上の時間を要する。

 米国は、地球温暖化対策の必要性は認めているものの、京都議定書のような強制的な規制ではなく、省エネなどの技術開発を核にした別の方法で取り組むと主張している。また、中国などは地球温暖化問題は化石エネルギーを大量消費してきた先進国の責任で解決すべきであるとして、開発途上国が削減義務を負うことに強く反対している。

 削減義務のない開発途上国のCO2排出量は世界全体の3分の2もある中で、2013年以降のポスト京都議定書の枠組についても、米国が交渉に入るのは時期尚早との考えを示しているほか、中国、インド、ブラジルが主導する開発途上国も、将来の削減義務に関する議論を行う用意はないと反対の姿勢を見せている。

 世界が100年以上の長期間にわたり、平衡性(バランス)と実効性の対策を継続していくためには、経済活動の強制的な規制は最小限にとどめる必要があり、京都メカニズムの活用の推進が期待されているところである。2100年までの地球温暖化対策としては、先進国から発展途上国への技術移転(世界的な省エネルギーの推進、クリーンエネルギーの大幅導入)と先進国における技術開発が考えられている。20402050年代に大気中に過剰に蓄積されるCO2を考慮すると、2050年代以降に次世代革新的エネルギー技術の開発が必要になるといわれている。

 現在の大気中CO2濃度は、産業革命以前の280ppmから370ppmに増大している。IPCCでは、高度安定化レベルを550ppmに設定する方針を打ち出しており、今後大気中に排出可能なCO2は約3,600t-Cになるが、先進国と開発途上国では考え方が異なる。産業革命以降大気中に蓄積された1,800t-CCO2は先進国の経済産業活動に伴って蓄積されたものであるというのが開発途上国の主張である。

 この議論を突き詰めていくと、今後急増が予想される開発途上国からのCO2排出抑制を議論する前に、すでに先進国が大気中に蓄積した1,800t-CあまりのCO2を先進国の責任において削減すべきであるとの主張につながる。それが「共通だが、差異のある責任」原則の主張である。

 現在の京都議定書では、排出抑制対策が主体的に進められているが、吸収源(固定)対策についても並行して推進することが、「共通だが、差異のある責任」原則を果たすことになる。

RITEでは、火力発電所の排ガス中に含まれるCO2を吸収・液化して地中貯留や海洋隔離する技術の開発を行っている。これは、大気中にCO2を排出する前の排出抑制対策に属するものである。大気中に過剰に蓄積されたCO2を吸収する方法としては、植林や砂漠の緑化が考えられているに過ぎない。

 そこで、本構想では、わが国の排他的経済水域で技術確立した技術を国際プロジェクトとして提案することを考えている。例えば太平洋亜寒帯域は、栄養塩は十分あるが鉄分が不足している海域である。そこに海洋プランテーションを設置することが考えられる。微量の鉄分が溶出するプラットフォームを用いることにより、未利用の海域で海藻を育成することが可能になる。片道約5,000kmあるので回遊制御も格段に楽になる。

現在IPCCで海洋隔離について検討されているので、海洋隔離が世界的に認知されれば、2020年代から海洋プランテーションを太平洋亜寒帯域に設置を開始して、20402050年代に大量の排出が予想されるCO2排出量を大幅に吸収することが期待できる。

図−4.21  世界の潮流図と太平洋亜寒帯域

 

3. 構想実現の課題

 従来から地球温暖化対策として省エネルギー技術開発・導入や代替フロン等の削減対策等の温室効果ガス排出削減の取り組みが行われているが、大気中CO2濃度の上昇をストップさせる見通しは立っていない。そこで、従来の対策に加えて、CO2固定・有効利用を将来的に導入可能な対策技術オプションとすべく、技術開発を推進する必要がある。京都議定書目標達成計画においても、革新的長期的なCO2削減対策技術として期待されている。

 なお、大規模発生源からのCO2削減対策技術(分離・回収、地中貯蔵、海洋隔離)と大気中CO2濃度の削減対策技術(大型海藻等)は、それぞれ異なった視点からの対策技術であり、大気中への排出前、排出後の削減技術を並行して進めることが重要である。

 大型海藻を栽培・回収しエネルギー源、肥料、飼料等として利用する方法は、新たなバイオマス利用技術として魅力的なオプションになる可能性がある。ただし、具体的に導入するためには環境への影響や安全性の評価、社会的受容の形成など総合的な取り組みが不可欠である。

出典:経済産業省「固定化・有効利用分野の技術戦略マップ」